命の恩人ノラ
やがて母は、ロサンゼルスに大きな屋敷を買いました。そして家政をみてくれるすてきな黒人のメイドさんに来てもらうことになりました。彼女の名前はノラ・ミラーといい、私が週末に家に帰れるときには、いつも私のために特別料理を作ってくれました。 ある日、私が外を歩いていると空地から火が出ているのに気づきました。火は私たちの家の方へ燃え広がってゆきます。私は隣家の水道ホースをひっつかんで炎を消そうと試みました。けれども、それはほとんど役に立たず、足元の火は私のドレスをも燃やしはじめました。そこヘノラが駆けだしてきて、私を土の上に投げ倒し、ゴロゴロと転がして私のドレスの火を消しとめてくれたのです。文字どおり彼女は私の命の恩人です。私のドレスに焼けこがしは作ったものの、ノラの機転ですぐに消防車が駆けつけ、火を消しとめてくれたので、私たちの家は火災から免れることができました。
私の心に残るもうひとつの事件が、同じ住所で起こりました。ある日、老いた馬が引っぱっている古いゴミ車が私の前を通り過ぎようとしました。その車の上の男が、あまりにも残酷に老馬をムチで打っていたものですから、私は思わずその馬車に飛び乗りました。これには彼も驚いてムチを放してしまいました。私はすかさずそのムチをひったくると、その通りを下るあいだ中彼をひっぱたきつづけたのでした。その日もまた、ノラが私を制御して救けてくれました。今思うと、ずいぶんお転婆をしたものです。